2.リポタンパク質と脂質輸送概要解説


○概要図中の用語集
リポタンパク質に関して
 リポタンパク質粒子は大きさ,比重,組成が必ずしも厳密に一定していない.
 概要図にはおおよその直径,比重,組成のパーセンテージが記されている.
● CM:Chylomicron, キロミクロン,カイロマイクロン,カイロミクロン
● CM-レムナント:Chylomicron remnant,キロミクロン・レムナント
● VLDL:Very low density lipoprotein,超低密度リポタンパク質
● IDL:Intermediate density lipoprotein,中間密度リポタンパク質
     =VLDLレムナント,VLDL remnant
● LDL:Low density lipoprotein,低密度リポタンパク質
● HDL:High density lipoprotein,高密度リポタンパク質
  (VHDL:Very high density lipoprotein,超高密度リポタンパク質)
● 原始型HDL,Nascent HDL
● R:粒子の直径 D:比重

アポリポタンパク質に関して(主なもの)

* B-100の48%に相当する.
関連酵素に関して
● LPL:Lipoprotein lipase,リポタンパク質リパーゼ,清浄化因子(Clearing factor)
 キロミクロン及びVLDLの中性脂肪(トリアシルグリセロール)を加水分解する酵素.
 脂肪組織,心筋,骨格筋など末梢組織に広く分布している.糖タンパク質で,分子量は約67,000.細胞内で作られ,末梢血管壁にヘパラン硫酸を介して結合している.アポC-IIはこの酵素を活性化する.CMやVLDLにはアポC-IIが含まれていることに注意.
 清浄化因子とも呼ばれる所以は,食後CMの存在によって白濁した血漿がこの酵素によって澄明となり清浄化されるからである.
● LCAT:Lecithin cholesterol acyltransferase,
 分子量約67,000の糖タンパク質で,原始型HDLやHDLの表面に存在するアポA-Iによって活性化され,特異的に結合し,コレステロールをエステル化し,レシチンをリゾレシチンへと変換する.原始型HDLに存在するコレステロールはエステル化され粒子の中心に集まってコアとなり,HDL3に変換する.HDL3は更にHDL2へと変換する.コレステロールエステル化されたコレステロールはHDLのコアへ移行するのでHDL表面のコレステロール吸収能が増大する.
● HTGL:Hepatic triacylglycerol lipase,肝性トリアシルグリセロールリパーゼ,
      肝性リパーゼ
 肝実質細胞で合成され,肝内皮上に存在しているリパーゼ,分子量約53,000の糖タンパク質.モノ,ジ,トリアシルグリセロールを加水分解できる.アポC-IIによる活性化を必要としないので,IDLのTGを分解してLDLへと変換させる.また,HDL2に働きTG,PLを加水分解してHDL3へと変換させる.

輸送タンパク質に関して
● CETP:Cholesterol ester transport protein,コレステロールエステル輸送タンパク質
 分子量約70,000の糖タンパク質で,結晶中に存在し,非極性脂質やリポタンパク質表面のリン脂質を輸送する.コレステロールエステルをHDLからVLDLやIDL,LDLへ輸送し,逆にVLDL,IDL,LDLからTGをHDLへと輸送する.肝臓へのいわゆるコレステロール逆輸送を担っている.このCETPはヒトやウサギでは多く存在するが.ラットやマウスでは欠如している.リポタンパク質代謝の種差の原因のひとつである.

受容体に関して
● LDL受容体
 肝臓や末梢組織細胞に存在し,リポタンパク質のアポB100とアポEを認識して細胞に取り込む.アポB100を含むLDL,アポEを含むVLDL,やIDL(VLDLレムナント),CMレムナントも受容すると考えられている.この働きで末梢組織への脂質の運搬供給,肝臓へのコレステロール,コレステロールエステルの逆輸送に関与する.
●アポE-受容体:ApoE receptor,レムナント受容体,Remnant receptor
 肝臓に存在すると考えられている受容体で,アポBを認識してCMレムナントやVLDLレムナント(IDL)を回収するとされている.LDL受容体を欠いた動物でも回収が行われるためにその存在が示唆されている.
●VLDL受容体
 脂肪酸の代謝が活発な心臓や骨格筋に存在して,アポEを特異的に認識し,中性脂肪を多く含むVLDLやIDLを積極的に取り込む役目をしている.

使われている物質の省略名
● TG:Tryacylglycerol,中性脂肪
● Chl:Cholesterol,コレステロール
● Chl-E:Cholesterol ester,コレステロールエステル
● PL:Phospholipid,リン脂質
● Prot:Apoprotein,アポタンパク質
● FFA:Free fatty acid,遊離脂肪酸

○「リポタンパク質と脂質輸送概要」解説
 リポタンパク質が関わる資質の輸送系は,大別すると,1) 外因性脂質の輸送,2) 内因性TGの輸送,及び3) 内因性コレステロールの輸送に大別できる.そしてヒトやウサギでは内因性TGと内因性コレステロールとの間に相互的係わり合いが存在する.
外因性脂質の消化吸収と輸送形態−キロミクロンの生成と代謝
● 食物中の脂質は,単純脂質(脂肪酸のアルコールエステル,主としてトリアシルグリセロール,別称トリグリセライドすなわち中性脂肪,fat),複合脂質(リン脂質や糖脂質など),誘導脂質(脂肪酸,脂肪族アルコール,ステロイド,脂溶性ビタミン,炭化水素,色素など)に分類される.
● 食物として摂取された長鎖脂肪(トリアシルグリセロール,TG))はモノアシルグリセロールと脂肪酸に分解され,小腸で吸収後,TGに再合成され,リン脂質,コレステロール,アポタンパク質などと一緒にキロミクロン(CM, 乳状脂粒とも呼ばれる)というミセルを構成して小腸からリンパ管,胸管を通じ未熟な形で循環血に入りここでHDL(高密度リポタンパク質)からアポC-IIやアポEを受け取って成熟型となる.CMの構成成分は,おおよそトリアシルグリセロール85%,遊離コレステロール3%,コレステロールエステル1%,リン脂質9%,アポタンパク質2%で,比重は0.95以下,粒子の大きさは75-1,000nmとヴァリエーションが大きく.球状で内部に中性脂肪やコレステロールエステルなどがあり,その周囲をその他の物質が膜状に取り巻いた形をしている.成熟型のCMは脂肪組織,末梢組織へ運搬される.それらの組織の血管内皮細胞膜ハパラン硫酸を介してに組み込まれたLPL(Lipoprotein lipase, ヘパリンにより血中に遊離する)により,CMのTGが加水分解され,遊離脂肪酸(FFA)とグリセロールとなる.この際アポC-IIが補酵素としてLPLを活性化する.脂肪酸は組織にエネルギー源として供給される.キロミクロンはまた脂溶性ビタミンの運搬にも役立っている.その周囲をその他の物質が膜状に取り巻いた形をしている.成熟型のCMは脂肪組織,末梢組織へ運搬される.それらの組織の血管内皮細胞膜ハパラン硫酸を介してに組み込まれたLPL(Lipoprotein lipase, ヘパリンにより血中に遊離する)により,CMのTGが加水分解され,遊離脂肪酸(FFA)とグリセロールとなる.この際アポC-IIが補酵素としてLPLを活性化する.脂肪酸は組織にエネルギー源として供給される.キロミクロンはまた脂溶性ビタミンの運搬にも役立っている.
● TGを失ったキロミクロンからは,アポタンパクA-IやA-IV,C-IIがHDLに移行してCMレムナントとなる.レムナントには残りの脂質とアポB-48やEが存在し,肝臓のアポE受容体によって肝臓に取り込まれ,リソソームで分解されて役目を終了する.
● 炭素数12以下の脂肪酸を持つ脂肪の大部分は完全に脂肪酸とグリセロールにまで分解され,吸収されてそのまま門脈系に取り込まれる.

内因性TGの輸送とVLDL系
●VLDLの生成とIDLへの転換
 肝臓などで合成された内因性中性脂肪やコレステロールは,肝臓で合成される未成熟VLDL(nascent VLDL)に取り込まれて肝臓から血中に放出される.この際の放出にはアポB-100が関与している.放出された未成熟VLDLはHDLからアポC-I,II,IIIやEを受け取り,成熟型のVLDLとなる.VLDLを構成するアポタンパク質はB100,C,Eが主成分で約8%,トリアシルグリセロールは約56%,コレステロールは約7%,コレステロールエステルは約12%,リン脂質は約17%を占める.直径は30-90nm,比重は1.006以下である.VLDLは,1) 組織に運ばれ,キロミクロンと同様C-IIを補酵素として活性化されたLPLによってTGが加水分解され,FFAを組織に供給し,更にアポC-I, II, IIIをHDLに渡してIDLとなる.IDLはVLDLレムナントとも呼ばれる.2) エネルギー代謝の活発な心臓や骨格筋にあるVLDL受容体や末梢組織のLDL受容体に結合して脂質を供給する.
● IDLの運命とLDLへの転換
 IDLの一部は肝臓のアポE受容体及びLDL受容体によって肝臓に取り込まれる.他の一部はVLDLと同じく心臓,骨格筋のVLDL受容体によって取り込まれる.そして残りはHTGLによってTGが加水分解され,アポEも失われてLDLとなる.
● LDLの運命
 LDLは末梢組織のLDL受容体,及び肝臓のLDL受容体と結合して取り込まれる.変性LDLはマクロファージなどのscavenger細胞の取り込まれる.LDLが過剰になると末梢組織やマクロファージにコレステロールが過剰に蓄積することになり,動脈硬化などの要因となる.

内因性コレステロールの輸送とHDL系
● 原始型HDLの生成とHDLへの変換
 小腸及び肝臓で作られる原始型HDLは主としてアポタンパク質とコレステロール,PLからなっており,円盤状をなしている.これに含まれるアポA-IがLCATを活性化して,LCATは,コレステロールをエステル化し,レシチンをリゾレシチンへと変換する.エステル化された原始型HDL中のコレステロールは粒子の中心に集まってコアとなり,形状は球形となってHDL3となる.また末梢組織やマクロファージからのコレステロールを取り込む.
● HDLからHDL2への変換とコレステロールの引き抜き回収
 HDL3はA-Iを持っているのでLCATの働きで更に表面のコレステロールがエステル化され,コアへと移行し,粒子表面に末梢細胞やマクロファージのコレステロールを引き抜き吸着して更にエステル化が進み,粒子の大きさも増してHDL2となる.
● CETPとHDL2からのコレステロールエステルの肝臓への逆輸送系及びVLDL, IDL, LDLからHDL2へのTGの移送
ヒトやウサギではCETPが存在し,HDL2に蓄積されたコレステロールエステルをVLDL, IDL, LDLに運び込み,これらのリポタンパク質が肝臓に取り込まれることによってChl-Eを肝臓に戻す,いわゆるコレステロール逆輸送系を形成する.CETPはまたVLDL,IDL,LDLからTGをHDL2に運び込む.HDL2のTGはHTGLの作用でTG, PLが加水分解され,HDL2はHLD3へと戻る.
 コレステロール逆輸送系は末梢細胞からコレステロールを肝臓に戻す働きをし,動脈硬化に対して予防的に作用すると考えられる.
 HDLコレステロールの上昇は:A-Iの増加によるものは動脈硬化の予防に関連.しかしCETP,HTGLの低下,欠損によるものは動脈硬化予防との関連不明.
 ラット,マウスではCETPが存在しないので逆輸送系は存在しないことになる.
● VHDL(Very high density lipoprotein,超高密度リポタンパク質)
生理的意義が明らかではないので図には示されていない.比重1.21〜1.25.おおよその組成は,アポタンパク質A-I,,II, IV,62%,PL 28%,TG 4.6%,Chl 0.3%,Chl-E 3%,粒子の直径 10nm

註)高脂血症(hyperlipemia)
 血清コレステロールまたはトリグリセリド値,または両者が増加した病態.高脂血症は血清脂質がきわめて増加して乳粥状を呈した状態をさす.
高脂質血症:hyperlipidemia血清脂質値の増加のみに注目した場合.
●原発性(一次性)高脂血症:先天的・遺伝的な原因によって発症する家族性高脂血症(家族性高リポタンパク血症).
I型(高キロミクロン血症,リポタンパクリパーゼ欠損症),
II型(高コレステロール血症):LDL受容体の異常によりLDLが蓄積する.
 血中LDLの量は冠動脈疾患の発症頻度と関連がある.
III型(異常リポタンパク血症):アポEの異常,欠損でCMレムナント増加.
レムナントは動脈硬化惹起因子と考えられており,高率で動脈硬化発症,
IV型(高トリグリセリド血症):VLDLのみ増加,飲酒によっても起きる.
V型:キロミクロンとVLDLの増加,飲酒やコントロールの悪い糖尿病でも起きる.

● 後天性高脂血症:甲状腺機能低下症やネフローゼ症候群などの諸疾患に続発して発症する高脂血症や治療薬剤の作用によって発症する二次性高脂血症secondary hyperlipemiaなどが含まれる.

                          まとめ:若 林 克 己
                             2004/03/26

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